マンション管理組合が弁護士と顧問契約を結ぶことがあります。通常,理事会役員の大半は,法律の素人でしょうから,専門家の助言をいつでも受けることができる顧問契約は有益なものといえるでしょう。
ただ,管理組合に対して顧問契約の締結を勧誘する弁護士のホームページを見ていると,顧問契約の特典として,当該管理組合の個々の組合員からの(マンション管理と無関係な)法律相談を無料で受けることを売りにしている例が散見されます。顧問契約の内容がそのようなものである場合,顧問料は,その一部が個々の組合員が個人的に受ける便益の対価としての性質を持つことになるでしょう。 そうすると,管理組合が顧問料を支払うことが許されるのか,考え方によっては問題となる余地があります。
というのも,従前,水道料金の支払義務を規約で定めうること(したがって,水道料金が区分所有法8条によって特定承継人が支払義務を負う債務に含まれうること)を否定する立場では,管理組合の目的は,建物と敷地の管理に関する事項に限られることがその論拠として主張されていました。私自身は,管理組合の行為を,そのように建物と敷地の管理という目的に直接関係する事項に厳密に限定することは,管理を団体の自治に委ねた区分所有法の趣旨から見てかえって不適切だと考えますが,水道料の支払い(と組合員からの回収)でさえ,建物・敷地の管理に関する事項でないという理由で管理組合の関与が許されないとするなら,まして組合員の個人的な法律相談というマンションにおける共同生活と全く関係の無い行為について,その料金の負担を管理組合がすることなど許されないことになるのではないでしょうか。すなわち,その一部が組合員が個人的に受ける便益の対価であるような顧問料の支出に充てられる限りで,管理費の支払義務を定める規約の規定は無効である,したがって,その限度で個々の組合員は管理費の支払義務を免れる,ということになるのが論理的帰結だと思うのですが,(水道料金の承継を否定する)論者の意見を聞いてみたいところです。