管理規約の中に賃借人等の占有者に義務を負わせた条項を見かけることがあります。しかし,規約の規定により,どのような事項でも占有者を拘束できるかというと,そうではありません。
本来,自らの意思によらずに義務を負うことはない,というのが近代市民法の基本原理(私的自治の原則)です。管理規約は,区分所有者の団体が定めたルールですから,団体の構成員でなく,規約の設定・変更に関与する資格も無い単なる占有者が,これに拘束される謂われはない・・・というのが原則といえます。この点,区分所有法は,規約で定めることができる事項を「区分所有者相互間の事項」に限定していますし(30条1項),規約により区分所有者以外の者の権利を害することができない旨定めています(30条4項)。
しかし,占有者もマンションで共同生活を送る一員であるのは事実ですから,共同生活のルールを守ってもらう必要があります。そこで,区分所有法は,特別に「建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法」については,占有者も規約により区分所有者が負う義務と同一の義務を負うものとしました(46条2項)。
したがって,規約により占有者に対する関係で有効に義務を課すことができるのは「使用方法」に関する規定のみであり,その他の義務を課す規定は,占有者に対して効力を持ちません。たとえば,規約で管理費や駐車場使用料の支払義務を占有者に課す規定を設けても無効です。
占有者に義務を課すことが必要な場合には,個別に占有者と管理組合との間で契約を交わさなければなりません。規約においてそのための手当をしようとするならば,区分所有者が賃貸するなどして専有部分を第三者に使用させる場合には,これこれの契約を当該第三者をして管理組合と締結させることを区分所有者の義務として定める条項を置くことが考えられます。