組合員(区分所有者)の親族(非組合員)が管理組合の理事長に就任し,管理組合の預金から多額の横領を行ったという事案に接しました。その組合では,組合員であることを役員の資格要件から外していたのです。
組合が理事長本人に損害賠償を求めたのは当然ですが,(理事長と親族関係にある)組合員に対しても損害賠償を請求して訴訟を提起しました。当職はその事件で被告である組合員の代理人を務めました。
組合は,請求の根拠として第一に,組合員の「同居家族」等が他の組合員に損害を与えた場合に組合員が同居家族等と連帯して損害賠償の義務を負うものと定めた規約の規定に基づく責任を主張しました。しかし,裁判所は,規約上の上記規定の位置等に鑑みれば上記規定に基づいて区分所有者が責任を負うのは,同居家族等がマンションの使用に関して他の組合員に損害を与えた場合に限られる旨判示し(その他の構成の主張も退けて)請求を棄却しました。
では,規約上,組合員の親族が役員としての責任を怠ったことによる損害についても組合員が賠償義務を負うと明記してあったとすれば,裁判所は,組合員の責任を認めたのでしょうか。その組合の規約では,組合員の親族を役員に選任するにあたって(当該役員候補者の親族である)組合員が関与する手続きはとくに設けられていませんでしたし,実際,被告とされた組合員は親族が理事長に就任した当時,その事実を知りませんでした。そのようなケースで,組合員の責任を認めることは余りに不合理といわなければなりません。仮に上記のような規約の規定があったとしても,公序良俗違反で無効とされた可能性が高いのではないでしょうか。本人の意思を媒介とすることなく義務を負わされることはない,とするのが近代市民法の原則だからです。
この事案から思う教訓は,仮に役員のなり手不足対策として,組合員の親族にも役員就任資格を認めるのであれば,親族が役員としての注意義務を怠った場合に(親族関係にある)組合員に連帯責任を負わせる規約の規定を設けるほか,非組合員である親族の役員就任については,(親族関係にある)組合員の同意を要件とし,同意について証拠を確保する運用をすることが少なくとも必要ではないか,ということです。