滞納管理費等を回収する手段として,滞納者に対する水道・電気の供給を停止する措置が採られる場合があります。
しかし,水道・電気のような,いわゆるライフラインを停止することは,居住者の生命・健康に対して重大な危険を生じかねない行為です。そのため,居住者から不法行為として損害賠償を請求されるおそれがあります。
裁判例にも,集中給湯システムを有するマンションにおいて,管理費等の滞納者に対し,給湯を停止した措置について,不法行為となることを認めたものがあります(東地判H2.1.30判時1370号83頁)。判決は,当該事案における給湯停止措置を「権利の濫用」であると述べていますが,管理組合に一般的に給湯等を停止する「権利」があると認めたものではありません。当該事案では,管理規約に管理費等の支払を遅延した場合には,給湯等を停止することができる旨の条項が存在し,管理組合側は,この規定による措置であるから違法でないと争いました。裁判所は,上記条項に基づく措置は「滞納問題の解決について,他の方法をとることが著しく困難であるか,実際上効果がないような場合に限って是認される」という解釈を示し,当該事案における給湯停止措置については,そのような場合にあたらないと認定して,「権利の濫用」に当たり違法だと判示したものです。
したがって,水道・電気等の供給停止は,規約に供給停止措置に関する条項がある場合であっても,他の方法を尽くしたうえで,やむを得ない場合に限り採りうる方法であり,そのような条項が無い場合には許されないものである,と考えておいた方がよいでしょう。
このように言うと,「電力会社も電気代を払わなければ電気を止めるではないか。」と反論されることがあります。しかし,一般電気事業者は,法律上,供給約款に従って電気を供給する義務を負い(電気事業法21条1項),供給約款については経済産業大臣の認可を受けなければならないこととされているところ(同法19条1項),供給約款には一定の条件のもとで供給を停止できることが規定されています(たとえば,関西電力㈱の電気供給約款(平成26年3月1日実施)を見ると,その「36供給の停止」で,「お客さまが料金を支払期日をさらに20日経過してなお支払われない場合」等に「5日前までに予告」したうえで供給を停止することがある旨記載されています。)。電力会社の供給停止については,この約款の規定が根拠となります。