自動車保険の約款を見ると、対物賠償責任の免責事由として、記名被保険者において「管理する財物」が滅失等したことによって損害を被った場合が挙げられています。では、管理組合がマンション管理会社に管理を委託している場合、マンションは管理会社にとって、この「管理する財物」にあたるのでしょうか。
こんなことを言うのは、ある管理会社の方から、次のような相談を受けたからです。
ある日、管理会社が管理を受託しているマンションの敷地内で社員が社用車を運転中、建物と接触して建物を損傷してしまいました。管理会社では、当然、費用を負担して修理をしたのですが、その費用について、加入している自動車保険の保険金を請求したところ、保険会社から「被保険者である会社が『管理』を受託しているなら、『管理する財物』にあたるから、免責事由に該当する」として支払いを拒否された、というのです。担当者は、「こんなときに保険金が出ないなら、何のための保険なのか・・・」と困惑していました。
自動車保険約款の免責規定にいう「管理する財物」の意義如何の問題ですが、裁判例を検索しても適当な事例は見当たりませんでした。
文献を調べてみると、「『管理』とは物理的・直接的な支配のみではなく、記名被保険者が法律・契約あるいは社会的関係に基づいてその財物を支配している状態にある間も含む」(東京海上火災保険株式会社編著『損害保険実務講座 第6巻 自動車保険』307頁)、「記名被保険者が管理する財物とは、記名被保険者に引き渡しが行われ、記名被保険者に管理責任が発生している財物をいう」(株式会社保険毎日新聞社発行『〔2005年版〕自家用自動車総合保険の解説〈SAP〉』62頁)などとありました。これらの「支配している状態」「引き渡しが行われ」といった文言からすると、ここでいう「管理する」とは当該財物を占有していることとほぼ同義ではないかと考えられます。
ところが、管理会社は、マンションの建物を「支配している」わけでもなければ、「引渡し」を受けてもおらず、建物を占有してはいません。ただ、管理組合との間の管理委託契約に基づき、受託した範囲の管理業務を行っているに過ぎません。
そうすると、マンションが管理会社にとって「管理する財物」に該当する、という見解は、「管理」という字句から短絡的に発想した誤った解釈といえそうです。
相談者には、以上のとおり説明して、「管理する財物」にあたらないことを主張するよう、アドバイスしました。後日、相談者がその旨主張して粘り強く交渉したところ、保険会社は相当抵抗したものの、最終的には方針を改め、保険金の支払いに応じてくれることになったそうです。