1 区分所有法57条を根拠とする請求の場合
共同の利益に反する行為の是正のため,区分所有法57条~60条に基づく請求の訴訟を提起するにあたって総会決議が必要であることは各法条に記載のとおりです。あらかじめ管理者に授権しておくこともできないと解されています。
したがって,事案ごとに提訴にあたって訴訟提起すること及び管理者(又は特定の区分所有者)を原告とすることを上記各法条の規定に従って決議する必要があります。
もっとも,上記訴訟の原告となることを管理者の職務として規約に定めておくことは可能と解されていますので,規約にその旨の条項がある場合には,訴訟提起することのみ決議すれば足ります。
2 規約の禁止規範を根拠とする請求の場合
規約で具体的に定められた禁止規範の違反を理由としてその是正を求める訴訟を提起する場合については,規約で管理者がその職務に関して区分所有者のために訴訟を提起できる旨の条項があれば,区分所有法26条4項に基づいて訴訟提起可能であり,個別の総会決議を要しないとする見解もあります(法務省民事局参事官室編『新しいマンション法』300頁)。
これに対し,単なる規約違反行為は同法57条~60条が適用される行為に比べて一般的には違法性が小さいと考えられることから同法57条2項を準用し,個別の総会決議を要すると解すべきとする見解も示されています(『コンメンタール区分所有法〔第3版〕』330頁同旨)。
どちらの解釈が妥当か判断は難しいところですが,無用の争点を作らないようにするために個別の総会決議を経て訴訟提起することとした方が無難であるといえます。